会社案内

3.平野佐五郎編

浦霞の歴史

浦霞へ来てから

Vol.8


page8.jpg 佐五郎と重一がきた頃と少しも
変わらない仕込み蔵

佐五郎は塩竈に居を構え、浦霞での酒造りを始めた。昭和24年のことだった。

佐五郎が浦霞に来て最初に行ったことは蔵内の清掃だった。
当時の蔵は戦争の影響もあってか荒れ果てていた。
そこで佐五郎は蔵内を徹底的に拭き掃除し、消毒を行い、完璧に清潔な状態にしてから酒造りを始めた。

酒造りは微生物との闘い。酒を造る際の一つの土台となるものが酵母菌だ。空気中にも野性の酵母菌がたくさんいる。酒を造る上では純粋な酵母菌を育てていかなければならない。
その為に「いくら清潔にしても、過ぎることはない。」と佐五郎は蔵の中をきれいにすることを徹底した。

器具類に触る場合も手洗い、消毒等に神経を使った。
重一たち蔵人がトイレに入って、簡単に手を洗って出て来ようものなら、たちまち雷が落ちた。 
蔵人にも体のすみずみまで清潔にすることを徹底させた。
佐五郎は特にポマードなどの整髪料をもっとも嫌った。
整髪料をつけて麹室に入るなどと言うことは以ての外。麹室内は温度が高い為、整髪料をつけると臭いがプンプンし、麹の香りが分からなくなるからだ。
こうして佐五郎は酒造りに必要な香り以外を排除していった。

蔵内を徹底的に綺麗にしたことからもわかるように、佐五郎は酒造りに対してだけでなく、無類な綺麗好きだったと言う。米粒一つ落ちているのも許さなかった。
それが酒造りに良い影響を与えたのだろう。

こんなエピソードがある。
当時、税務署の調査が頻繁にあった。仕込蔵へは重一たち蔵人は入口で草履に履き替えていた。
他の蔵では罷り通っていたのだろうか、税務署の役人は草履に履き替えることなく、土足のまま仕込蔵に入っていた。
それを見た佐五郎、「我々には良い酒を造っているというプライドがある。」「その辺のどぶろく造りとは違うんだ。みそもくそも一緒にしないでくれ。なんだ、その土足は!」と烈火の如く怒ったという。
これは腕に自信があるからこその言葉だ。税務署の役人たちもこれには従わざるを得なかった。

税務署の役人との間にはこんなエピソードもある。
税務署の調査はその時の酒の容量を調査することだった。
その頃、酒税は国の重要な税源だった。その為、間違いやごまかしが無いようにと税務署の役人が頻繁に調査にきていた。この調査は酒造りが忙しいことも関係なかった。
タンクの大きさは決まっているので、タンクの上部から酒の表面までどのくらい空寸(空間)があるかで酒の量を割り出す。蔵の若い者が空間尺を測り、それを信用し、佐五郎や重一が税務署の役人に報告する。
しかし、税務署の役人の中には自分の目で確かめようとする者もいる。佐五郎たちにとっては税務署の調査はよけいな仕事との思いがある。酒造りの忙しい時期。だんだんと殺気だってくる。
そんな時佐五郎は、「人の言ったことが信用できなかったら、あんたが検査官なんだ。あんたがちゃんと一人で尺を取りなさい。(尺を取るとは空寸を測ること。)」と言ったと言う。
税務署の役人は「別に信用しないわけでなかったけど、我々も命令を受けて来てるもんだからつい過ぎることもある。申し訳ない。」と折れたと言う。

重一も吟醸酒の仕込み時には、やることが山積みの中で検査に2~3時間とられることもあり、税務署の役人が空寸を確かめようとすると、「そんなに人の取ったの信用できなかったら、あんた取ったらいいんでないか。」と言い、蔵の若い者がはしごを持って歩いていたりするのを「やめろ、やめろ、自由に取っていただくべし。」と言ったりしたことがあったと言う。

その頃、浦霞では和釜でお湯を沸かし、その蒸気で甑(こしき)と呼ばれる道具で米を蒸していた。
和釜のお湯を沸かす燃料には石炭を使っていた。
佐五郎は使用する石炭もいろいろと吟味し、北海道の良質の石炭を使用していた。
佐五郎が選んだ石炭は火力が強く、割ると中がピカピカと光る。正に黒ダイヤだった。
この石炭は砕いて火に投げ入れると直ぐに火がつく。釜のお湯を直ぐ沸騰させるにはそういう石炭じゃないと駄目だった。
石炭は石炭屋が馬車で運んで来た。石炭屋はごまかそうと時々質の悪い石炭を持って来ることもあった。
質の悪い石炭は燃やすと火力が鈍る。佐五郎は石炭屋が運んできた石炭をハンマーで砕き、断面を子細に点検したと言う。
そして、質の悪い石炭だとわかったら全て持ち帰らせた。
馬車で来てスコップで降ろす。持ち帰る時もスコップで積み込む。大変な労力だ。

佐五郎にはごまかしもきかなかった。石炭は昭和40年頃まで使っていた。

浦霞に来た佐五郎は酒造りの環境を整え、瞬く間に良い酒を造るようになっていった。

各種鑑評会でも良い成績をとるようになった。酒販店の信頼も取り戻し、段々と評価されて行くようになる。